ウェブサイトの作成・運営の仕事に20年近く携わっているが、近年ではただウェブサイトやLPを作成するだけではなく「何のために作成するのか」「どのように認知させ見てもらうのか」「そこで誰にどのように行動してほしいのか」という問いかけや議論がひと昔前に比べて格段に増えたことを感じる。また、デザイナーとコーダーという体制であることはほぼなく、開発者、UX担当者、マーケティング担当者、ベンダーなどとの協業も欠かせない。
一方、自分が買い物をする時に目を向けると商品の見た目やサービスの仕様を比較をすることはもちろんだが、それと同時になぜその商品やブランドを選ぶのかを熟考したり、そのウェブサイトで動線や情報がわかりやすく提供されているかどうか、購入完了までの情報入力や手順がスムースかどうかを重視していることに気づく。
本書はデザイナーとしてキャリアをスタートし現在はデザイン会社を経営する著者が、複雑なプロセスを経て構築される「デジタル・ブランディング」を、経験に基づいて基本から実践方法まで紹介した一冊である。
大きく分けて「Understanding - 理解」と「Methodology - 方法論」という2つのパートで構成されている。「理解」に比べて「方法論」がおよそ1.5倍のボリュームのため、著者は方法論を重視していることがうかがえる。著者が経営する Errestres の手がけたケーススタディも巻末資料として紹介されている。
前半の「理解」は、企業や製品・サービスがどのように変化してきたかの経緯やトレンドが体系的かつ網羅的にまとめられており、知識の再確認、デジタルとブランディングを融合させた「デジタル・ブランディング」がなぜ今、必要とされているのへの理解を深めることができた。
後半の「方法論」は、自身はすでに本書で述べられているようないわゆる「デジタル・ブランディング」に関わる仕事をしているため既視感のある印象を持ったが、デザイナーではないためデザイナーの視点によるアプローチやテクニックは新鮮さがあった。
自然な日本語翻訳で違和感なく読了することができ、「デジタル・ブランディング」とは「テクノロジーとデザインの融合」であり「知的資本今日において他社との競争・差異化に欠かせない価値創出」であるという理解および言語化に役に立った。いわゆるUX/UIデザインのカテゴリーに該当する本と言ってもいいかもしれない。
今日、経営層やマーケティング担当者でもビジネスやマーケティングにおいてデジタルを避けて通ることは難しい。デジタルマーケティングやブランディングを見聞きして何となくわかっているというレベルの人にとっては、前半の「理解」でその基本的な考え方から必要性までをひととおり学ぶことをお勧めしたい。
コンサルタントやデザイナーとしてデジタルおよびブランディングに携わる仕事をしている人であれば、後半の「方法論」で紹介されているフレームワークや手法が即戦力の一助になるに違いない。
著者:Pablo Rubio Ordás(パブロ・ルビオ・オルダス)
監修:長谷川 雅彬(はせがわ まさあき)
発行:Cross Media Publishing(クロスメディア・パブリッシング)
発売:Impress(インプレス)
関連情報
Pablo Rubio Ordás 氏 公式サイト
Erretres(エレトレス)公式サイト